The Chronicle of Broadway and me #367(Bombay Dreams)

2004年4月@ニューヨーク(その5)

 『Bombay Dreams』(4月24日14:00@Broadway Theatre)について観劇当時に旧サイトに書いた感想は、<インドが舞台のロンドン産。緩い脚本による“あざとい”作品で、ロンドンで観なくて正解だった。装置に金かければいいってもんじゃない。>、と手厳しい。

 作曲は、1995年(日本公開1998年)の『Muthu』(邦題:ムトゥ 踊るマハラジャ)で知られ、2008年公開の映画『Slumdog Millionaire』(邦題:スラムドッグ$ミリオネア)でアカデミー賞を獲ることになるA・R・ラフマーン。日本での翻訳上演の際にラフマーンについて書かれていた謳い文句は「アンドリュー・ロイド・ウェバーが惚れ込んだ“インドのモーツァルト”」だったらしい。
 どちらの映画も面白く観たし、音楽もよかった。で、このミュージカルの楽曲も悪いわけじゃない。メロディは魅力的だし。ただ、トランスっぽいノリやサウンドが、それだけで完結してる感が強くて、ミュージカルの音楽としてはどうなんだろう、という気がする。

 そうした音楽に見合った、例えば夢幻的でスペイシーなストーリー(ってどんなだ?)だったりすればいいのだろうが、視覚的には夢幻的でスペイシーな要素(装置や照明や大人数のダンス)が用意されているものの、話は2時間ドラマのように通俗的。
 ボリウッド映画のスターを目指すスラム出身の主人公。そのスラムの再開発計画。スラムの住人の味方を標榜する弁護士。その婚約者でドキュメンタリー映画を志向するヒロイン。その父はメジャーな映画製作者。暗躍する裏社会の人間。
 主要登場人物を並べるだけで展開が見えてくる。
 映画関係者の目に留まってスターへの階段を駆け上がるものの、結果的に見捨てることになったスラムの仲間たちの危機を知って苦悩する主人公。恋敵なだけでなくスラムの敵でもあることが判明する弁護士。真相が暴かれる過程で起こる殺人。改心する主人公。等々。
 まあ、こうした展開がボリウッド的なのかもしれないが、ブロードウェイの舞台で観ていると、なんだかなあ、な感じ。
 意外なのはハッピーエンドにならないことだが、その意外性が面白いわけではなく、むしろ肩透かし。

 というわけで上記の感想になった次第。
 ただし、ボンベイ(1995年以降の名称はムンバイ)という土地には宗教・民族に関する複雑な歴史的背景があり、物語にそれが反映されている可能性もないではない。そのあたりは全く理解できていないので、あしからず。

 元になったロンドン版の製作はアンドリュー・ロイド・ウェバー(製作総指揮的な感じでしょうか)と彼の会社リアリー・ユースフル・シアター・カンパニー。その関係からだろう、作詞はロイド・ウェバーとよく組むドン・ブラックが担当。
 脚本ミーラ・サイアル&トーマス・ミーハン。原案シェーカル・カプール&アンドリュー・ロイド・ウェバー。
 演出スティーヴン・ピムロット。振付アンソニー・ヴァン・ラスト&ファラ・カーン。
装置・衣装マーク・トンプソン。照明ヒュー・ヴァンストーン。

 主人公アカーシュ役のマニュ・ナラヤン、ヒロインのプリヤ役アニシャ・ナガラジャンは、共にこれがブロードウェイ・デビューだが、この後、ナラヤンは『My Fair Lady』『Gettin’ The Band Back Together』に出演、ナガラジャンは開幕が延期になっているリヴァイヴァル『Company』への出演が予定されている。