The Chronicle of Broadway and me #701(Hungarian Nights/A Letter To Harvey Milk/Zelda/Shelter/Stand Tall)

2012年7月@ニューヨーク(その6)

 NYMF(ニューヨーク・ミュージカル・シアター・フェスティヴァル)参加作品15本を3分割して、その2。

 『Hungarian Nights』(7月26日12:00@45th Street Theatre(Main Stage))はリーディング上演作。後に本格舞台化され、粘り強く発展を続けているようだ。
 ハンガリーの夜と言えばドラキュラ。これも吸血鬼譚で、19世紀末、父親を亡くした娘がトランシルヴァニアの伯爵と結婚せざるをえなくなり、という話。ただし、ホラー寄りではなく、永遠の命と愛の話だったような……(記憶不鮮明)。
 シェリル・E・ケメリー作曲の音楽は土地柄を反映した民族音楽+ロマ的な要素が強い。作詞・脚本はそのケメリーとマリナー・ペッザ。
 演出デイヴィッド・グレン・アームストロング。
 ヒロインを演じたジョセフィーナ・スカリオーネはアルゼンチンのオペラ歌手で、2009年版『West Side Story』のマリア役に抜擢されブロードウェイ・デビュー、トニー賞にノミネートされている。

 『A Letter To Harvey Milk』(7月26日17:00@Griffin Theatre/Pershing Square Signature Center)のタイトルにあるハーヴェイ・ミルクは、1978年に暗殺されたゲイのサンフランシスコ市長。原作はレズレア・ニューマンの同名短編小説。舞台は1986年のサンフランシスコ。登場するのは市井の人々だが、彼らの内面でLGBTQ+とユダヤ人のアイデンティティとホロコーストの影が時空を超えて絡み合う繊細な内容。楽曲にも内容を支える豊かさがある。
 作曲ローラ・I・クレイマー、作詞エレン・M・シュウォーツ。脚本ジェリー・ジェイムズ。
 演出デイヴィッド・シェクター。振付マイケル・レイン。
 老年の主人公ハリーを演じるジェフ・ケリーは、1974年リヴァイヴァル版『Candide』でブロードウェイ・デビューして以降多くの作品に主にオリジナル・キャストとして出ている人。個人的には『The Phantom Of The Opera』で2度観ている。高齢者センターでハリーに作文を教えるバーバラ役がレズリー・クリッツァー(『Legally Blonde: The Musical』『The Great American Trailer Park』『A Catered Affair』)。ハリーの亡妻フラニー役シェリル・スターン(『La Cage Aux Folles』)。

 『Zelda』(7月27日12:00@45th Street Theatre(Main Stage))もリーディング上演。スコット・フィッツジェラルドと妻ゼルダの物語。名を成して華やかなローリング・トゥエンティーズを送った後の、財政難と精神的な痛手。有名なカップルの波瀾に満ちた半生を描く。
 作曲・作詞・脚本コレット・シルヴェストリ。補作曲&ピアノ編曲アーサー・ターナー。
 演出ジェイムズ・アレグザンダー・ボンド。

 『Shelter』(7月27日17:00@PTC Performance Space)は、フィラデルフィアの(虐待からの)女性避難所が舞台。主人公はそこで働く相談役だが、やがて彼女自身が相談相手から救ってもらっていることに気づく、というのが大筋。細かいエピソードの丁寧な積み重ねによって、現代女性の抱える様々な問題が浮かび上がってくる。
 作曲ニュウェル・ブラン&ブリタニー・ブラン、作詞ブリタニー・ブラン。
 演出ブライトン・スローン。振付アシュリー・ストーンブレイカー、レベッカ・ラボイ、ロビン・ブラン。

 『Stand Tall』(7月27日20:00@45th Street Theatre(Main Stage))はイギリス産の“ロック・ミュージカル”。前年秋にロンドン南西部のクラファムで1か月の公演を行なったようだ。旧約聖書にあるダビデとゴリアテの争いを、ロック・スターでもある羊飼いデイヴィッドと町を支配するギャングのゴライアスとの争いに置き換えて描いている。題材と言い、2010年代を迎えて後あえて“ロック・ミュージカル”を名乗っていることといい、ある種のシャレなんだろうが、あまり印象に残っていない。
 作曲・作詞・脚本リー・ワイアット=バカン、サンディ&アルディー・チャルマーズ。
 演出サイモン・グリーフ。
 ゴライアス(ゴリアテ)役ジェラード・キャノニコは、これ以前に『Spring Awakening』『American Idiot』に出演。最近まで途絶えずに活躍している。