The Chronicle of Broadway and me #294(The Pajama Game)

2002年5月@ニューヨーク(その5)

 The Pajama Game(5月3日20:00@City Center)は、1度は舞台版を観てみたい作品だった。と言うのも、初演版が振付家ボブ・フォッシーの出世作だったから(詳細はこちら)。なので、この「アンコールズ!」シリーズでのリヴァイヴァルはうれしかった。
 加えて、主演がカレン・ジエンバ(『Crazy For You』『Steel Pier』『Contact』)となれば、これは観ないわけにはいかない。
 ……と意気込んで観たわりには、観劇当時、感想を旧サイトに書いていない(笑)。

 覚えているのは、振付がフォッシーの再現というわけではなかったこと。再現ではなかったが、フォッシーの流儀を尊重した、関節自由自在的な奇妙でセクシャルな動きは随所に観られた。
 肝はやはり「Steam Heat」で、その再現は『Fosse』で堪能しているから、興味の核心は、それをどう工夫して変えているかになるわけだが、あれだけ印象的な振付ともなると、どう変わったところで少なからず違和感は伴う。かと言って、変わってなきゃ変わってないで「おいおい」と思われるのだから大変だ。
 その大変な振付を担当したのは、リヴァイヴァル版『Into The Woods』と同じく、トワイラ・サープ門下のジョン・カラファ。「Steam Heat」の印象は、改変率50%ぐらいな感じだったと思う。

 その「Steam Heat」を踊る3人組の真ん中はディードゥレ・グッドウィン。カレン・ジエンバ同様、オリジナル・キャストではないがリヴァイヴァル版『Chicago』の人脈。プレイビルのグッドウィンの紹介欄に、映画版『Chicago』の撮影が終わったばかり、と書いてある。そういう時期だったか。『Chicago』人脈では他に、ジエンバの相手役(つまり、もう1人の主演)でブレント・バレット、アンサンブルでケイトリン・カーターが参加。フォッシーつながりなのに、案外少ない。
 舞台版とは無縁だが、映画版『Chicago』からは、後に『Ain’t Too Proud』で振付助手になるエドガー・ゴディノーが参加。グッドウィンと共に「Steam Heat」を踊っている。
 もう1人の「Steam Heat」ダンサーはハーマン・ペイン。この時、ジュリアードを卒業したばかりだったようだが、すでにプロの舞台経験があり、この前後で『Fosse』の海外ツアーに参加している。

 演出は『Urinetown』でジョン・カラファと組んだ、ジョン・ランドウ。

 さて、ここまで全く内容に触れてませんが(笑)。
 ざっくり言うと、パジャマ工場の賃上げ闘争の渦中、新たに就任した工場長の男性と労働組合の指導的立場にある女性とが恋愛関係に到る、という話。
 ブロードウェイ初演は1954年。「赤狩り」の急先鋒ジョセフ・マッカーシーがつまずいた年でもある(上院で譴責決議を受ける)が、共産党統制法が成立してアメリカ共産党が非合法化された年でもある。アメリカにおける労働組合の意味合いというか受け取られ方は、日本とはかなり違う気がするのだが、それでも、けっこう微妙な時代にこの題材を扱ったのは、コメディとはいえ冒険だったのではないだろうか。
 逆に言うと、話題作りとしては大成功……という狙いの結果かどうかはさだかではないが、ヒットしている(1年半超のロングラン)。
 トニー賞では、楽曲賞(作曲・作詞リチャード・アドラー✕ジェリー・ロス)と脚本賞(ジョージ・アボット✕リチャード・ビッセル)も込みでの作品賞(プロデューサーの1人はハロルド・プリンス)、振付賞(ボブ・フォッシー)、それに助演女優賞(キャロル・ヘイニー)を獲得。演出はジョージ・アボットとジェローム・ロビンズが共同で。原作は脚本のビッセルの小説。
 ちなみに、ヘイニーの「Steam Heat」での妙技は映画版で今も観ることができる。

 で、だ。そんな1954年の話題作が約半世紀後の観客相手に通用するかというと、やはり古びて見えたのではないかという気がする。新たな衝撃を受けた、という記憶がないので、おそらく、そうだったと思う。
 そもそも、「アンコールズ!」シリーズは基本的に「観たことのない過去作を観てみよう」的な性格のイヴェントなので、観客の多くは「今日性」をあまり問うていない。そんな空気の中で「古き佳きミュージカル・コメディ」を楽しんだ、ということでひとつ。

 この作品については2006年版の時に、また改めて。

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