The Chronicle of Broadway and me #903(Polkadots: The Cool Kids Musical)

2017年9月~10月@ニューヨーク(その2)

 『Polkadots: The Cool Kids Musical』(10月1日10:30@Linda Gross Theater)については、観劇後間もなく配信音楽誌「ERIS」第21号に感想を書いているので、それを編集・短縮(特に後半)して転載します(<>内)。

『Polkadots: The Cool Kids Musical』は、こんな話。
 ニューヨークにも同じ地名が実在するが、あくまで架空のロッカウェイという町の小学校が舞台。住んでいるのは「スクエア」姓の人ばかりで、みんな体に四角い斑点がある。そこに、体に丸い斑点=水玉(ポルカドッツ)のある女の子リリー・ポルカドットが転校してくる。そんな異形の闖入者に反発するのが、気の強い女の子ペネロープ・スクエア。逆にリリーに惹かれるのが、内気な兄のスカイ・スクエア。教師の”ミズ”スクエアは優しいが、それでも、「ルールだから」と従来の水飲み場に”スクエア・オンリー”の貼り紙をした上で、リリー専用の水飲み場を別に設置してしまう。はてさて、孤立するリリーの運命やいかに。

 いやあ、貼り紙の件りにはドキッとしました。象徴的な寓話の姿をしているものの、極東の島国から来た異邦人ですらすぐにわかる辛辣な表現だし、現実問題としてトランプ政権下のアメリカで人種差別が再び露わになってきているのは、ご承知の通り。しかも、リリーを演じている女の子だけが、ただ1人黒人でして…。例えば、日本の差別問題に材を採った子供向けのミュージカルを作って、同じような表現をしたとしたら、今の日本だと、「子供相手にとんでもない!」とかって誰かが声高に言いそう。
 この話には、もうひとつヒネりがあって、中盤で”ミズ”スクエアが”初めての女性教師”として偏見と闘ってきたことが明らかにされる。ジェンダー差別の問題にも触れているわけだ。
 と、まあ、あれこれありつつも、子供向けらしく、最終的には理解し合ってハッピーエンドにはなる。希望がなくちゃね。

 音楽的には、今日的なR&B調からヒップホップ調までブラック・ミュージックを基調とした躍動的な楽曲が並ぶ。客席を巻き込んでの振り付きのナンバーも用意されているのは、子供向けならでは。
 楽曲作者は、作曲がダグラス・ライオンズとグレッグ・ボロウスキーで、作詞はライオンズ単独。ちなみに、作品の原案もライオンズが手掛けている。
 そのライオンズは『Beautiful: The Carole King Musical』のオリジナル・キャスト他でブロードウェイにも出ている人で、楽曲作者としての仕事は、公にはこれが初のようだ。
 興味深いのが共同作曲のグレッグ・ボロウスキー。南アフリカ出身のソングライター兼プロデューサーで、「SAMA(南アフリカのグラミー賞)を受賞した何人かの大物ミュージシャンの裏方」として活躍、とプログラムに書かれている。本人もGB Collective名義でアルバム『Collective Conscience』をリリース、シングル「Chocolate Vanilla」をヒットさせている……と、これは検索で調べた経歴。アルバム、シングル共に南アフリカの音楽賞のR&B部門でノミネートされた、とある。
 その『Collective Conscience』のブラッシュアップ盤(収録曲を再アレンジしてフィーチャー・アーティストを差し替えた楽曲+新曲といった内容)が『The Greg Dean Project』。本拠地をニューヨークに移してグレッグ・ディーン名義で作ったプロデュース・アルバムで、2016年、UKのソウル・チャートで1位となり、ビルボードのR&Bチャートにも6週チャートイン。このアルバムでフィーチャーされている歌手の内の2人がブロードウェイ・ミュージカルの出演経験者。その内の1人、マイカル・キルゴアは今のところブロードウェイでは代役クラスだが、もう1人のチェスター・グレゴリーはアポロ・シアターで上演されてからツアーに出た2009年の『Dreamgirls』リヴァイヴァル版のジミー・アーリー役や2011年のブロードウェイ版『Sister Act』の踊る警官エディ役で知られる。
 ボロウスキーが、どのようにしてニューヨークのミュージカル人脈とつながったのかはわからないが、ウェブに上がっている本人による公式バイオグラフィには、仮題『Mandera』というミュージカルを書いている、という情報が載っている。このマンデラのミュージカルが今後登場してくるのかどうかは不明だが、いずれにしても、この先が楽しみなミュージカル楽曲作者の1人だ。>

 脚本メルヴィン・タンストール三世。
 演出タミーラ・ウッダード。振付シェイ・サリヴァン。

 リリー・ポルカドット役ラトーヤ・エドワーズ。

 最後に触れているミュージカル『Mandera』は、ロンドンのヤング・ヴィク劇場で昨年(2022年)11月30日にプレヴューを開始し、12月8日に正式オープン、今年の2月4日までの上演が実現している。作曲・作詞はグレッグ・(ディーン・)ボロウスキー&ショウン・ボロウスキー。脚本はライオナ・ミッシェル。

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