ロミオとジュリエット@東京宝塚劇場 2021/05/14 13:30

 星組公演。行き当たりばったりの行政のせいで、またまた途中休演の憂き目に遭ったものの、12日から再開できた。よかったよかった。

 さて、 『ロミオとジュリエット』。元は、『Roméo et Juliette: de la Haine à l’Amour』というタイトルのフランス産で、作者(作曲・作詞・脚本の意味だと思う)はジェラール・プレスギュルヴィック。もちろん、シェイクスピアの同名戯曲が原作。日本語版ウィキペディアによれば、初演は2001年1月19日、パリのパレ・デ・コングレ劇場だったそう。
 宝塚歌劇公演は、2010年の梅田芸術劇場と博多座での星組初演は未見だが、以降の雪組(2011年)、月組(2012年)、星組(2013年)の東京宝塚劇場公演は観てきたので、今回の星組公演についての感想の前に、旧サイトに書いてあったそれらについての感想(簡易ですが)を上げておく(<>内)。参考までに、2012年のフランス版来日公演も観たので、そちらの感想も併せて。
 先に言っておくと、作品そのものについては(つまり宝塚歌劇版の出来がどうこうではなく)一貫して懐疑的です。


『ロミオとジュリエット』@東京宝塚劇場 2011/03/01 18:30

 新生雪組の『ロミオとジュリエット』。音月桂のトップお披露目公演だった。
 フランス産舞台を、小池修一郎が潤色。正直、ロミオのキャラクターがイマイチ納得できなかったが、ま、いっか。てか、そもそも、このミュージカル、原作(あるいは『West Side Story』)を超えて面白いですかね?

 音月桂は初々しく、男役トップでロミオを演じられるってのも、この人ならではなのかな、と思ったが、どうだろう。ちなみに、ダブル・キャストのはずだったジュリエット役は、夢華あみが体調不良で2月下旬から休演になっていて、ずっと舞羽美海がやっていたようだ。>


『ロミオとジュリエット』@東京宝塚劇場 2012/08/21 18:30

 新生月組の『ロミオとジュリエット』。2011年の雪組による上演の再演で(その前に2010年に星組が大劇場以外でやっているようだが観ていない)、潤色・演出は小池修一郎、オリジナルはフランスのジェラール・プレスギュルヴィック。本国版が、今度、渋谷ヒカリエ内のシアター・オープにやって来る。
 ちなみに、雪組公演の時に、こんな感想を書いている。

 フランス産舞台を、小池修一郎が潤色。(中略)このミュージカル、原作(あるいは『West Side Story』)を超えて面白いですかね?

 今回も同じことを感じた(笑)。なので、なぜ再演するのか、大いに疑問。
 新トップの龍真咲は、雪組でロミオを演じてトップになった音月桂と似て、子供っぽさを残した初々しい印象だが、これは役柄ゆえなのかも。と言いつつ、実のところ、これまで月組は霧矢大夢ばかり観ていて、他の役者にまで目が行ってなかった。なので、ホントのところはよくわからない。申し訳ない。
 トップ娘役の愛希れいかは、線が細く物足りない印象だが、なにしろ演目が気に入っていないので、本当の評価は次回に、か。
 ちなみに、今回の月組公演は、2番手の明日海りおが日替わりでロミオを演じていた。
 よかったのは、専科の、乳母役・美穂圭子とロレンス神父役・英真なおき。この2人がいなければ、全く成り立たなかっただろう。>


『ロミオ&ジュリエット~ヴェローナの子どもたち Romeo & Juliette』@シアター・オーブ 2012/10/10 19:00

 フランス版。小池修一郎が潤色・演出した、宝塚版及びTBS+ホリプロ+梅田芸術劇場版の元(オリジナル)だ。ちなみに、今回の来日公演の主催は、その、TBS+ホリプロ+梅田芸術劇場に東宝を加えた4社。

 結論から言うと、面白いものではなかった。
 喉を全開にした歌唱に強力なエコーをかけた歌と、アクロバティックな部分を強調した群舞とが、スペクタクルな印象を与える装置や照明の中に並存する。それらが必ずしも有機的に結びついておらず、派手ではあるが、デリカシーに欠ける。そんな舞台。演劇的奥行きに乏しいというか……。言ってみれば、ロック版のサーカス。
 この感じ、過去に観た何かに……そうだ、2000年8月にロンドンで観た『Notre Dame De Paris』に似ている。と思っていたら、劇場で受け取ったチラシ群の中に、同作の来日公演情報(来年2月)が入ってた(笑)。
 チケットをオンラインで買う時、公式サイトに“演奏がテープ録音になる”旨が書かれていて驚いたのだが、ふたを開けてみれば、演奏は(おそらく)全て打ち込み。これなら、生演奏である必要はないだろう、という発想になっても不思議はない。
 このフランス版を観て、小池修一郎の手柄は、オリジナルには“死”しか登場しないところに“愛”の役を付け加えたことだと思った。“死”だけだと、どうにも宗教的感じが強すぎて、日本人にはエグ過ぎる。もっとも、それ以前に、この作品を潤色してまで採り上げる意味があるのかが疑問だが。

 開場後3作目で初めて訪れた“ミュージカル専用劇場”シアター・オーブだが、ミュージカル用の劇場としては全体に大きすぎるし、2~3階席が位置的に高すぎる。結果、親密感に乏しくなっているので、演目によっては寒々とした印象が強くなるかもしれない、と思った。ロビーその他の感じも、ちょっと冷たい。>


『ロミオとジュリエット』@東京宝塚劇場 2013/08/06 18:30

 星組公演(潤色・演出/小池修一郎)。

 ロミオ=柚希礼音、ジュリエット=夢咲ねね、は固定だが、準主役級の何役かで複雑なダブル・キャストがある。
 そんな中で個人的に気になるポイントは、2番手の紅ゆずるがティボルト(ロミオの敵)とベンヴォーリオ(ロミオの親友)、3番手の真風涼帆がティボルトと“死”を演じているところ。で、観た回は、ティボルトが真風涼帆で、紅ゆずるはベンヴォーリオ。これで正解、と思った。
 ベンヴォーリオは狂言回し的な重要な役だが、モンタギュー(味方)とキャピュレット(敵)の間で揺らぐ瞬間がけっこうある、登場人物中、最も曖昧(で複雑)なキャラクター。これを紅ゆずるが演じることで舞台の厚みが得られた。ちなみに、もう1人のベンヴォーリオ役は若い礼真琴で、いつもは男役ながら、この日は女性の姿の“愛”を演じていた。
 逆に、ティボルトという役は、ある意味、単純なので、紅ゆずるでなくてもいい。と言うと、真風涼帆のファンに叱られるかもしれないので急いで言うが、もちろん彼女は魅力的に演じていた。ここはあくまで、紅ゆずるがどちらかを演じるのであれば、という話なので、誤解なきよう。

 宝塚版『ロミオとジュリエット』の初演は星組だが、東京には来なかったので、星組版を観るのはこれが初めて。華やかで、いい。うまい人が多いし。
 この演目で重要なジュリエットの乳母役は美城れんで、さすがな感じ。あと、キャピュレット夫人の音花ゆりもよかった。>

 雪組、月組の時は、作品に対する不満が先に立って細かいところまで観ていないようだ(苦笑)。
 しかし、『エリザベート』Elisabeth)同様、現地オリジナルより宝塚歌劇版の方が出来がいいのは間違いない。

 今回、星組公演を観ながら改めて感じたのは、この作品がかなり『West Side Story』をなぞっている、ということ。おかしな言い方だが、『ロミオとジュリエット』の衣を借りながら『West Side Story』を演じている感じ。諍いの群舞で始まり、その諍いに参加していなかったロミオが恋の予感を歌い……という幕開きの流れは、まんま『West Side Story』
 それで、その先に新しい何かを目指しているかというと、そうでもない。『West Side Story』の持っていた同時代性も、あまり感じられない。このフランス産ミュージカル『ロミオとジュリエット』という作品そのものに対する個人的な不満は、そのあたりの“どっちつかず”感にある。
 今回、たまたま『West Side Story』についての原稿を配信音楽誌ERISの次号のために書いていて、同作の“現在性”について考えつつ、過去のオリジナル・キャスト盤や映画のサウンドトラックを聴きまくっていたので、よけいにそうしたことが気になった。

 一方で、この『ロミオとジュリエット』が宝塚歌劇にとって(言い方は悪いが)都合のいい作品であることは、よくわかる。
 とにかくロミオとジュリエット役はトップ2人で固定なわけで、そこを確保した上で、その他の主な役に、役替わりという飛び道具で男役の“生徒”たちが挑戦していくという、宝塚歌劇ならではの、作品の本質から離れたドラマを作っていくことができる。
 『エリザベート』宝塚歌劇版の配役を主眼にした展開といい、小池修一郎を、作家<演出家<プロデューサー、と思うゆえんだ。ただし、その才能が発揮されるのは宝塚歌劇限定ぽいが、別にそれはそれで素晴らしい。

 で、今回の星組公演だが、そうした作品そのものに対する不満を別にすれば、礼真琴に見事にハマって、よくできていた。
 こうやって観てくると、礼真琴が、小池修一郎好みの涼風真世に始まる妖精系列にいることがわかる。月組公演で龍真咲と同時に明日海りおをダブルキャストでロミオにした意味も見えてくる。
 とかって話は、ま、いっか。
 観た回で際立ったのは、なんと言っても愛月ひかるのティボルトの存在感。
 難しいベンヴォーリオ役は瀬央ゆりあだったが、前半がよかった。パリス伯爵の綺城ひか理、死の天華えまも印象に残る。
 ロレンス神父役の英真なおきは、すっかり役を飲み込んだ好演。ジュリエット乳母の有紗瞳も安心して観ていられた。
 正直、この作品のキャラクターは、脚本上、描かれ方に矛盾(あるいは齟齬)があって、演じるのは大変だと思う。そういう意味でも宝塚歌劇にとっては、“生徒”たちの試金石として有効なのかもしれないが。

 以上が星組『ロミオとジュリエット』の感想だが、実は、一番感心したのが、本編が終わった後のショウ場面。いわゆる「フィナーレ」。短い場面だが、KAORIalive振付のダンスに息を呑んだ。
 礼真琴(率いる星組)、すごいな。
 これは、共同演出でクレジットされている稲葉大地の手柄なのか。この方向で星組が進化するなら見届けたい。

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