★1998年9月~10月@ニューヨーク(その2)
『Swan Lake』(10月3日14:00@Neil Simon Theatre)は、ちょうど新演出版とやらが来日しているマシュー・ボーン(演出・振付)版のニューヨークお目見え公演。「怪しき白鳥たち」のタイトルで旧サイトに書いた感想。
<一昨年暮れに訪れたロンドンで評判が高かったのが、チャイコフスキーの古典バレエ『Swan Lake』の白鳥を男ばかりが演じるというバレエ・パフォーマンス。その時はほとんどソールドアウト状態だと聞いたので観るのはあきらめたのだが、その好評を背負っての約1年半後のニューヨーク期間限定公演、プレヴュー開幕前から期待感が高く、こちらのチケット売れ行きも好調のようだった。
観たのは正式オープン5日前のプレヴュー。とは言え、公演を重ねて練り上げられてきた作品、すでに仕上がっているように見えた。……のだが、実のところ、イマイチ核心をつかみきれず、ちょっととまどった、というのが正直な感想。
観るまでは、単純に『Swan Lake』を男ばかりで演じる舞台なのかと思っていたが(そういう舞台も別にありますが)、違った。
改めて考えてみれば元のストーリーをアレンジしてあるのだが、改変の度合いが大きく、全く別のオリジナル・ストーリーを用意したのかと思うほどだった。
元の『Swan Lake』はこんな話。
21歳の誕生日を迎える王子が狩りに出かける。彼はまだ自由を謳歌したいのだが、狩り場に現れた女王は、慣例に従って彼が妃を迎えなければならないことを思い出させる。
その日、王子は湖で、人間に姿を変えた白鳥と恋に落ちる。実は白鳥は、魔法使いによって変身させられたさる国の王女で、童貞の青年と結ばれれば呪いは解けるという。
翌日の夜会。女王は王子を次々と妃候補に引き合わせるが、白鳥を想う王子は首を縦に振らない。ところが、最後に到着した男爵の娘をひと目見て、王子は心を奪われる。彼女は白鳥にそっくりだったのだ。
しかし、それは男爵に化けた魔法使いの罠で、陰謀に気づいた王子は本当の白鳥の許に駆けつける。が、時すでに遅く、白鳥は命を絶たなければ永遠に白鳥でいるしかなくなる。意を決した王子は白鳥と共に湖に身を投げる。その瞬間、魔法使いも力を失い、消え去る。
とてもわかりやすい。したがって、安心してバレエの妙を楽しむことができる。
今回の『Swan Lake』も王子の話で、王子+白鳥+女王のある種の三角関係という大枠も、元の『Swan Lake』と同じ。
なのだが、これがわかりにくい。もちろん、目の前で起こっていることはわかるのだが、その背景、動機とか因果関係とかが見えない。そんなの気にしないでパフォーマンスを観ていけばいいのだろうけど、ストーリーがあるとどうしても追ってしまうので、なんだか消化不良。核心をつかめない、と言ったのはそういうことだ。
大まかに言うと、こういう話。
時はどうやら現代。
子供の王子が巨大なベッドで眠っている。そこに悪夢のように白鳥が現れる。という導入部があって、場所は再び王子の寝室。今度の王子は成人している。成人はしているが子供っぽい。
この王子が、なぜか母である女王から疎まれている。でもって、この女王が多情な印象。だから、母と息子の間にもなにやら歪んだセックスの匂いがする。
ともあれ、女王と王子はそれぞれエスコートの男性とガールフレンドとを連れてバレエ見物に出かける。このバレエの内容が、白鳥ではなく蝶なのだが、どこか『Swan Lake』を思わせる。しかし、タッチはコミカル。この観劇は王子のガールフレンドの不作法が原因で混乱の内に終わる。
この後、王子はいかがわしいクラブへ出向き、酔っぱらってさんざんな目に遭う。
そして街の公園。ベンチでうなだれる王子の前に白鳥たちが現れ、舞う。
ここまでが第1幕。
第2幕はかなり元の『Swan Lake』に近い。と言うのは、各国の王女たちが集う宮殿でのパーティがメインだからだ。
このパーティに、やはり白鳥にそっくりの“男”が現れ、フェロモンを振りまいて混乱に陥れる。
最後は軟禁されたとおぼしい王子の寝室。ベッドの中(枕の下)から例の白鳥が現れ、ベッドの下から出てきた他の白鳥の攻撃から王子を守り、そして消えていく。
おそらく、第1幕前半は、大人になりきれない王子を描いているのだと思う。そこには、もしかしたら現代の英国王室に対する揶揄やなんかが入っているのかもしれない、とも思う。が、そうなるとよけいわからない。
ただ言えるのは、コミカルさが野暮ったい感じがするということ。だもんで、第1幕は後半の白鳥たちの登場までは、かなり退屈。
が、公園での白鳥たちの踊りには異様な力がみなぎっていて、迫力たっぷり。ただ、それが何を表現しているのかが見えなくて、困った。
第2幕は、前述したようにパーティ場面がほとんどで、元の『Swan Lake』同様、様々な踊りが繰り広げられて観応えがある。ここはストーリーを考えずにダンス・レヴューだと思って観ていられるので、楽しい。
そんなわけで、踊りの場面に関しては面白かったが、作品全体の趣向はと言うと、ねらいがよくわからず、残念ながら楽しみきれなかった。>
どうなんですかね、新演出。観る予定はありませんが。