The Chronicle of Broadway and me #181(Swan Lake)

1998年9月~10月@ニューヨーク(その2)

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 『Swan Lake』(10月3日14:00@Neil Simon Theatre)は、ちょうど新演出版とやらが来日しているマシュー・ボーン(演出・振付)版のニューヨークお目見え公演。「怪しき白鳥たち」のタイトルで旧サイトに書いた感想。

<一昨年暮れに訪れたロンドンで評判が高かったのが、チャイコフスキーの古典バレエ『Swan Lake』の白鳥を男ばかりが演じるというバレエ・パフォーマンス。その時はほとんどソールドアウト状態だと聞いたので観るのはあきらめたのだが、その好評を背負っての約1年半後のニューヨーク期間限定公演、プレヴュー開幕前から期待感が高く、こちらのチケット売れ行きも好調のようだった。
 観たのは正式オープン5日前のプレヴュー。とは言え、公演を重ねて練り上げられてきた作品、すでに仕上がっているように見えた。……のだが、実のところ、イマイチ核心をつかみきれず、ちょっととまどった、というのが正直な感想。
 観るまでは、単純に『Swan Lake』を男ばかりで演じる舞台なのかと思っていたが(そういう舞台も別にありますが)、違った。
 改めて考えてみれば元のストーリーをアレンジしてあるのだが、改変の度合いが大きく、全く別のオリジナル・ストーリーを用意したのかと思うほどだった。

 元の『Swan Lake』はこんな話。
 21歳の誕生日を迎える王子が狩りに出かける。彼はまだ自由を謳歌したいのだが、狩り場に現れた女王は、慣例に従って彼が妃を迎えなければならないことを思い出させる。
 その日、王子は湖で、人間に姿を変えた白鳥と恋に落ちる。実は白鳥は、魔法使いによって変身させられたさる国の王女で、童貞の青年と結ばれれば呪いは解けるという。
 翌日の夜会。女王は王子を次々と妃候補に引き合わせるが、白鳥を想う王子は首を縦に振らない。ところが、最後に到着した男爵の娘をひと目見て、王子は心を奪われる。彼女は白鳥にそっくりだったのだ。
 しかし、それは男爵に化けた魔法使いの罠で、陰謀に気づいた王子は本当の白鳥の許に駆けつける。が、時すでに遅く、白鳥は命を絶たなければ永遠に白鳥でいるしかなくなる。意を決した王子は白鳥と共に湖に身を投げる。その瞬間、魔法使いも力を失い、消え去る。

 とてもわかりやすい。したがって、安心してバレエの妙を楽しむことができる。

 今回の『Swan Lake』も王子の話で、王子+白鳥+女王のある種の三角関係という大枠も、元の『Swan Lake』と同じ。
 なのだが、これがわかりにくい。もちろん、目の前で起こっていることはわかるのだが、その背景、動機とか因果関係とかが見えない。そんなの気にしないでパフォーマンスを観ていけばいいのだろうけど、ストーリーがあるとどうしても追ってしまうので、なんだか消化不良。核心をつかめない、と言ったのはそういうことだ。

 大まかに言うと、こういう話。
 時はどうやら現代。
 子供の王子が巨大なベッドで眠っている。そこに悪夢のように白鳥が現れる。という導入部があって、場所は再び王子の寝室。今度の王子は成人している。成人はしているが子供っぽい。
 この王子が、なぜか母である女王から疎まれている。でもって、この女王が多情な印象。だから、母と息子の間にもなにやら歪んだセックスの匂いがする。
 ともあれ、女王と王子はそれぞれエスコートの男性とガールフレンドとを連れてバレエ見物に出かける。このバレエの内容が、白鳥ではなく蝶なのだが、どこか『Swan Lake』を思わせる。しかし、タッチはコミカル。この観劇は王子のガールフレンドの不作法が原因で混乱の内に終わる。
 この後、王子はいかがわしいクラブへ出向き、酔っぱらってさんざんな目に遭う。
 そして街の公園。ベンチでうなだれる王子の前に白鳥たちが現れ、舞う。
 ここまでが第1幕。
 第2幕はかなり元の『Swan Lake』に近い。と言うのは、各国の王女たちが集う宮殿でのパーティがメインだからだ。
 このパーティに、やはり白鳥にそっくりの“男”が現れ、フェロモンを振りまいて混乱に陥れる。
 最後は軟禁されたとおぼしい王子の寝室。ベッドの中(枕の下)から例の白鳥が現れ、ベッドの下から出てきた他の白鳥の攻撃から王子を守り、そして消えていく。

 おそらく、第1幕前半は、大人になりきれない王子を描いているのだと思う。そこには、もしかしたら現代の英国王室に対する揶揄やなんかが入っているのかもしれない、とも思う。が、そうなるとよけいわからない。
 ただ言えるのは、コミカルさが野暮ったい感じがするということ。だもんで、第1幕は後半の白鳥たちの登場までは、かなり退屈。
 が、公園での白鳥たちの踊りには異様な力がみなぎっていて、迫力たっぷり。ただ、それが何を表現しているのかが見えなくて、困った。
 第2幕は、前述したようにパーティ場面がほとんどで、元の『Swan Lake』同様、様々な踊りが繰り広げられて観応えがある。ここはストーリーを考えずにダンス・レヴューだと思って観ていられるので、楽しい。

 そんなわけで、踊りの場面に関しては面白かったが、作品全体の趣向はと言うと、ねらいがよくわからず、残念ながら楽しみきれなかった。>

 どうなんですかね、新演出。観る予定はありませんが。

The Chronicle of Broadway and me #180★(1998/Sep./Oct.)

★1998年9月~10月@ニューヨーク(その1)

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 27度目のブロードウェイ(42歳)。

 この時は、<予定に入れていた新登場作『Little Me』『Footloose』のプレヴューが、前者は到着した日に、後者はその翌日に延期を発表。ままあることとは言え、まさか2本とも観られないとは。さすがにショックだった。>というわけで、上の写真は『Footloose』準備中のリチャード・ロジャーズ劇場
 で、<新ネタは、ロンドンからやって来たバレエ・パフォーマンス(?)『Swan Lake』と、オフの『Dinah Was』『Villa Villa』の 3本>プラス<前回の『Sweet Charity: The Concert』のような一夜限りの特別イヴェント>『My Favorite Broadway』、という案配。
 以下、観劇リスト。

9月28日 20:00 My Favorite Broadway@Carnegie Hall 888 7th Ave.
9月29日 20:00 Dinah Was@Gramercy Theatre 127 E. 23rd St/
9月30日 14:00 Bring In ‘Da Noise, Bring In ‘Da Funk@Ambassador Theatre 215 W. 49th St.
9月30日 20:00 Rent@Nederlander Theatre 208 W. 41st St.
10月1日 19:30 Cabaret@Kit Kat Klub 124 W. 43rd St.
10月2日 20:00 Villa Villa@Daryl Roth Theatre 20 Union Square East
10月3日 14:00 Swan Lake@Neil Simon Theatre 250 W. 52nd St.
10月3日 20:00 Chicago@Shubert Theatre 225 W. 44th St.

 作品の感想はそれぞれ別項で。

The Chronicle of Broadway and me #119★(1996/Jun.)

★1996年6月@ニューヨーク(その1)

 19度目のブロードウェイ(40歳)。

 1996年の社会的事件は、国内では、オウム真理教の解体へ向けての動き、薬害エイズ事件の責任追及問題、銀行の破綻や再編、といった事項が目立つ。
 政局は、自民社会さきがけ連立内閣の変動(村山内閣退陣→橋本内閣発足)から民主党結成へと流れている。日本社会党は党名を社会民主党に変更。
 そんな中、まだ橋本内閣の厚生大臣だった菅直人が薬害エイズ事件で血友病患者に直接謝罪したのは、民主党結成に向けてのパフォーマンスだった可能性もあるが、そうだとしても、現安倍政権の閣僚たちの酷さと比較すると信じられないぐらい誠実に見える。
 携帯電話・PHSの契約者数が急増した年でもあるらしい。2月に発売されたゲームボーイ用「ポケットモンスター赤・緑」によりポケモンが世に出たのも、この年。11月には「たまごっち」が発売されている。
 パフィがデビュー。ってことは、個人的には、この年辺りを境に数年遠ざかっていた新しい音楽を再び聴き始める感じか。
 ミュージカルでは、宝塚歌劇版『エリザベート~愛と死の輪舞~』の雪組による初演がこの年。

 アメリカでは11月にクリントンが大統領選で再選。
 7月のアトランタ・オリンピック開催直前に、ニューヨーク沖でトランスワールド航空機が爆発、墜落する事故が起こっている。原因は、直後に疑われたようなテロではなく、電気配線のショートによる燃料への引火とされている。

 その事故の少し前に訪れたニューヨーク。観劇タイトルは次の通り。

6月23日 19:00 Cowgirls@Minetta Lane Theatre 18 Minetta Lane
6月24日 20:00 Curtains@John Houseman Theatre 450 W. 42nd St.
6月25日 20:00 Bring In ‘Da Noise, Bring In ‘Da Funk(Noise/Funk)@Ambassador Theatre 215 W. 49th St.
6月26日 14:00 How To Succeed In Business Without Really Trying@Richard Rodgers Theatre 226 W. 46th St.
6月26日 20:00 Moon Over Buffalo@Martin Beck Theatre 302 W. 45th St.
6月27日 20:00 Pilobolus Dance Theatre@Joyce Theatre 175 8th Ave.

 前回からひと月半ほどの間隔で飛んだのは、1つには『Crazy For You』の脚本家ケン・ラドウィグの新作『Moon Over Buffalo』を観るためだが、仕事上の仲間たちのニューヨーク熱が高まって、その案内役を買って出た感なきにしもあらず。なので、オンのミュージカル2本を彼らと一緒に再見。
 残り3本の内、ミュージカルはオフの『Cowgirls』のみ。『Curtains』はイギリス産のブラック・コメディ、『Pilobolus Dance Theatre』はその名のダンス・カンパニーの公演。
 結果、地味めのラインナップとなったが……。以下、個別の感想に続く。

The Chronicle of Broadway and me #110(Hello, Dolly![2]/H.M.S.Pinafore/Master Class/New York City Ballet)

1996年1月@ニューヨーク(その2)

残りをまとめて。

HelloDolly

 『Hello, Dolly!』(1月4日20:00@Lunt-Fontanne Theatre)は、キャロル・チャニングを可能な限り観ておこうと再見。感想は省略。楽屋口にあった看板の写真を載せておく。半端なフレーミングはご容赦。アナログ・カメラは現像するまでどう写ったかわからないもので。

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 『H.M.S.Pinafore』(1月5日20:00@Symphony Space)は、ギルバート&サリヴァン W.S.Gilbert & A.Sullivan の1881年初演のオペレッタ。

『The Pirates Of Penzance』と同じくニューヨーク・ギルバート&サリヴァン・プレイヤーズによるリヴァイヴァル。
 身分の違う恋愛を軸にした『Anything Goes』ばりのコメディで、歌、ダンス、ギャグと三拍子そろっていて楽しい。スターはブロードウェイやTVでも知られるパット・キャロル。>

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 『Master Class』(1月6日14:00@Golden Theatre)は、テレンス・マクナリーの書いた1995/1996年シーズンのトニー賞作品賞を受賞したプレイ。観劇は受賞前。

<すでにこの時点で受賞確実の呼び声高く、大平和登氏が業務連絡のFAXに、わざわざ“傑作”と書いていらしたほどで、主演女優ゾー・コールドウェルも下馬評通りトニーを獲得した。
 日本でもこの秋、黒柳徹子がセゾン劇場で演じたが、マリア・カラスが一流のオペラ歌手を目指す若手に特別に指導するマスター・クラスの現場を舞台にしたもので、演じる者の尊厳と不安を、まずはカラスの前に出た生徒のものとして描き、さらに最盛期を過ぎたカラス自身のものとして描く。その描き方の笑いと苦さの調合が絶妙なわけだが、さらに、3人の生徒たちの歌も見事というオマケもあって、得した気分にもなる。
 白い半ドーム状のセットとプロジェクションとで、レッスン室が一瞬にしてオペラハウスや野外劇場に変わる鮮やかな手法には驚いた。
 コールドウェルの、決して沈み込まない、軽妙にして、なおかつ深い演技にはうなった。
 なお、お気づきのことと思うが、マスター・クラスとマリア・カラスは韻を踏んだ響きになっている。>

 書き落としているが、生徒の内の1人がオードラ・マクドナルドだった。彼女はこの役で2度目のトニー賞受賞。
 ゾー・コールドウェルはトニー賞授賞式後の7月に降板。替わって登場したのがパティ・ルポンで、翌年の1月末まで演じていたのだが、訪れた1月上旬がちょうど彼女の休暇中で残念ながらルポン版は観られなかった。
 文中にある大平氏の「業務連絡」とは、こちらで触れた本「笑うブロードウェイ」の件。

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 『New York City Ballet』(1月6日20:00@New York State Theatre)の定期公演。演目は、ジョージ・バランシンの「Serenade」と、ジェローム・ロビンズの「2&3 Part Inventions」「West Side Story Suite」。

<もちろん目当ては3つ目だったわけだが、他の2作も美しかった。前者は繊細、後者は力強い。
 「West Side Story Suite」を観て改めて思ったのは、やはり『West Side Story』はダンスさえあればいいということ。そう思い込むのに充分な魅力にあふれている。これだけのダンスがあるのだから、ドラマ部分を絞り直して、現代のミュージカルとして再生させる道もある気がするのだが。>

 おそらく、これ以前に劇団四季の『West Side Story』を観ていての感想と思われる。

The Chronicle of Broadway and me #108(Don Giovanni/Paul Taylor Dance Company/The Phantom Of The Opera[2]/Crazy For You[10]/Show Boat[3])

1995年10月@ニューヨーク(その7)

 1本ずつ観たオペラとバレエについての当時の感想を以下に。なお、過去に観た『The Phantom Of The Opera』(10月18日14:00@Majestic Theatre)についてはこちら『Crazy For You』(10月16日20:00@Shubert Theatre)についてはこちら『Show Boat』(10月19日20:00@Gershwin Theatre)はこちらの感想を参照してください。

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 『Don Giovanni』(10月17日20:00@New York State Theatre)はニューヨーク・シティ・オペラの定期公演。書いていないが、演出ハロルド・プリンス、振付スーザン・ストロマンだったはず。なので観に行ったと思う。Show Boat』でプリンスがストロマンを起用した理由の1つが、このプリンス演出版『Don Giovanni』(1989年初演)で組んでいたことだった。

<ニューヨーク・シティ・オペラで観たのがモーツァルトの『Don Giovanni』。1984年の映画『Amadeus』(邦題:アマデウス)に、舞台上の主人公が地獄の業火に焼かれるクライマックス・シーンが出てくる、あれだ。
 その映画の中の『Don Giovanni』の初演シーンで印象的なのが、当時の観客が退屈しまくっていて、1人サリエリのみが素晴らしさに恐れおののいていること。今回観て、その反応の理由がよくわかった。
 ストーリーは、別の男と結婚しようとしている女さえ誘惑してしまうドン・ジョヴァンニの奔放で刹那的な女性遍歴を追ったものであり、最後に、それを戒めるべく幽霊(冒頭で誘惑されそうになった娘を救おうとしてジョヴァンニに殺された男)が登場してジョヴァンニを地獄に落とし、めでたしめでたし、というもの。
 が、ジョヴァンニの行動がハチャメチャな上に、最後の戒めも、いかにもとってつけたような感じで、エンディングで残った登場人物が教訓めいたことを歌う(多分そうだと思う)のが、全体のトーンがコメディなだけに、また嘘っぽい。作者の真意は、はっきりジョヴァンニの側にある。
 これでは当時の観客には、かなりブッ飛んで見えただろう。
 個人的には、サリエリのようには芸術的高度さはわからないが、大いに楽しんだ。>

 音楽のことを全く書いていないが、楽曲も込みで退屈しない作品。出演者は誰だったんだろう。調べてわかったら追記します。
 この時に観たことをすっかり忘れていて、後に、また観に行くことになるのだが、その時は演出もストロマンだったかも。その回を書く時に要確認。
 

 『Paul Taylor Dance Company』(10月15日19:30@New York City Center)は、その名の通りポール・テイラー・ダンス・カンパニーの公演。<40年以上の歴史を持つアメリカ生まれのダンス・カンパニー>と、この時点で書いているから、すでに65年にはなるのか。創設者ポール・テイラーは2018年に亡くなっている。

<ダンスを読み解く画期的名著「西麻布ダンス教室」には名前が出てこないが、ポール・テイラー・ダンス・カンパニーは素晴らしく楽しいカンパニーだった。
 この日の演目は「Arden Court」「Funny Papers」「Speaking In Tongues」の3本。
 ユーモラスかつ美しいもの、映画『Invasion of the Body Snatchers』(邦題:ボディ・スナッチャー/恐怖の街)を連想させる恐怖感が裏に張り付いた緊張感漂うもの、など色合いは様々だが、ダンサーの躍動感、振付の新鮮さが魅力的。>

 こちらも音楽のこととか書いといてほしかったな(苦笑)。プログラムが出てきたら追記します。

The Chronicle of Broadway and me #102★(1995/Oct.)

★1995年10月@ニューヨーク(その1)

 16度目のブロードウェイ(39歳)。

 秋のブロードウェイの新登場作が出揃ったところで出かけたわけだが、#41で触れたように、期待していたトニー・テューン主演の『Busker Alley』は脚本の手直しやテューンのケガもあってブロードウェイ入りしなかった。

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10月13日 20:00 Victor/Victoria@Marquis Theatre 211 W. 45th St.
10月14日 14:00 Company@Criterion Center Stage Right 1530 B’way & 45th St.
10月14日 20:00 Patti LuPone On Broadway@Walter Kerr Theatre 219 W. 48th St.
10月15日 15:00 Swinging On A Star@Music Box Theatre 239 W. 45th St.
10月15日 19:30 Paul Taylor Dance Company@New York City Center 131 W. 55th St.
10月16日 20:00 Crazy For You@Shubert Theatre 225 W. 44th St.
10月17日 20:00 Don Giovanni@New York State Theatre/Lincoln Center
10月18日 14:00 The Phantom Of The Opera@Majestic Theatre 245 W. 44th St.
10月18日 20:00 Hello, Dolly!@Lunt-Fontanne Theatre 205 W. 46th St.
10月19日 20:00 Show Boat@Gershwin Theatre 222 W. 51st St.

 新登場ミュージカルは『Victor/Victoria』『Company』『Swinging On A Star』『Hello, Dolly!』の4本。『Patti LuPone On Broadway』はコンサート。
 『Paul Taylor Dance Company』はバレエ公演。『Don Giovanni』はオペラ。その他の3本は再見。

 このシーズンは翌年春に『Victor/Victoria』も巻き込んで大波乱が起こるのだが、秋の時点では平穏な、どちらかと言えば静かな雰囲気の劇場街だった。
 各作品の感想は次回以降に。

The Chronicle of Broadway and me #095★(1995/Jun.)

★1995年6月@ニューヨーク(その1)

 15度目のブロードウェイ(39歳)。

 1995年。日本国内は、いつにも増して大変な年。ことに前半に2つの大事件。
 1つは1月17日の阪神・淡路大震災。もう1つが前回の渡米前日3月20日に起こった地下鉄サリン事件。後者の犯人であるオウム真理教は、実はそれ以前から未遂も含め数多くの殺人事件を起こしていたことが今ではわかっている。
 アメリカでは、4月19日に168人の死者を出したオクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件が起こっている。犯人は湾岸戦争にも参加していた元アメリカ陸軍兵士の白人だったが、事件直後は周辺在住の中東系の人々が警察の拘束を受けたという。
 4月に東京都知事になった青島幸男が、公約通り5月に世界都市博覧会の開催中止を決定するという、珍しく筋の通った事案もあった。
 高速増殖炉もんじゅ廃炉のきっかけとなったナトリウム漏洩事故は、この年12月。当初は隠蔽されていた。
 11月に盧泰愚、12月に全斗煥と、暮れ近くになって2人の元大統領が韓国で逮捕されている。いずれも罪状は金銭問題。今の日本なら何人逮捕されることやら。
 ドル/円の為替レートは4月に1ドル=79.95円を記録。一旦、円高のピークを迎える。
Windows95発売、Amazon.comサーヴィス開始、野茂英雄の大リーグ入りもこの年。MP3ファイルもそうらしい。
 5月にテレサ・テンが気管支喘息で亡くなっている。

 6月に観た舞台は次の通り。

6月14日 20:00 Love! Valour! Compassion!@Walter Kerr Theatre 219 W. 48th St.
6月15日 20:00 Swingtime Canteen@Blue Angel Supper Club 323 W. 44th St.
6月16日 20:00 John & Jen@Lamb’s Little Theatre 130 W. 44th St.
6月17日 15:00 The Fantasticks@Sullivan Street Playhouse 181 Sullivan St.
6月17日 20:00 All Robbins Program/New York City Ballet@New York State Theater/Lincoln Center
6月18日 14:00 Swinging On A Star@Goodspeed Opera House East Haddam, Connecticut
6月19日 20:00 How To Succeed In Business Without Really Trying@Richard Rodgers Theatre 226 W. 46th St.
6月20日 20:00 Chronicle Of A Death Foretold@Plymouth Theatre 236 W. 45th St.

 ブロードウェイの新作は『Chronicle Of A Death Foretold』1本。再見の『How To Succeed In Business Without Really Trying』(感想は前回分をご覧ください)、ストレート・プレイ『Love! Valour! Compassion!』、バレエ公演『All Robbins Program/New York City Ballet』以外はオフ公演と地方公演。『Swinging On A Star』を観に、初めてコネティカットまで足を延ばした。

 個別の感想は次回以降で。

The Chronicle of Broadway and me #078(Hat Off/Broadway Classics/Swan Lake)

1994年5月@ニューヨーク(その9)

 オフ・オフのミュージカル、ミュージカル関係のコンサート、バレエをまとめて。<>カッコ内は当時の感想(短縮してあります)。
 

 『Hat Off(To Broadway)』(5月7日23:00@Off Stage At Mita)が上演されていたのは、当時あった日本食レストランの地下の小さな劇場。『Grand Hotel: The Musical』のツアー・メンバーに名前のあるミュージカル女優、ヴィクトリア・リーガンのワンパーソンショウだった。

<バックに2人の男性ダンサー、バンドはピアノとドラムス、という編成は、舞台のサイズから言って最大限。途中で観客の1人を飛び入りさせて一緒に踊るという演出があるのだが、それが実は3人目の男性ダンサーで、最後に4人で踊る時にはさすがに舞台が狭すぎる気がした。
冒頭の2曲が「That’s Entertainment」「Get Happy」だったことから予想した通り、ショウのスタイルはオーソドックスなもので、リーガンが自分のキャリアを語りながら、その時々のエピソードにまつわる歌と踊りを披露していく、というもの。
 面白かったのは、映画『Strictry Ballroom』(邦題:ダンシング・ヒーロー)のパロディが出てきたこと。この映画、やっぱりダンス好きには応えられない魅力があるんだな。
 手堅い演出・振付はバイヨーク・リー。『A Chorus Line』のオリジナル・キャストの1人で、昨年日本でも出た「ブロードウェイ物語~『コーラスライン』の舞台裏」(原題:On The Line The Creation Of A Chorus Line」という本の3人の著者の1人でもある。
 きちんと作られていて好感を持ったが、こういうショウは、最終的にはスターの魅力(個性と芸)にかかっているので決定的な盛り上がりには欠けた。ただし、大雨で客席がまばらだったのも、この日の舞台の雰囲気に影響していたとは思う。>
 

 『Broadway Classics』(5月8日20:00@Carnegie Hall)は、ブロードウェイ出演経験のある3人の役者がブロードウェイ・ミュージカルの楽曲を歌うというコンサート。3人とは、クリス・グローネンダール、ティモシィ・ノーレン、ダイアナ・ウォーカー。
 2部構成で、第1部の最後に『The Phantom Of The Opera』のナンバーを全員で歌うパートがあったが、それは、グローネンダールがブロードウェイ版アンドレのオリジナル・キャストであり、ノーレンがブロードウェイでファントムを演じた最初のアメリカ人だからだと思われる。ちなみに、グローネンダールは『Passion』に出演中だった。

<カーネギー・ホールの舞台に登場するのは3人の歌手と2人のピアニスト。しかも、歌手もピアニストも入れ替わりで登場するので、基本的には歌手1人とピアニスト1人という最小限のチーム。
 観客は1階オーケストラ席の前3分の2ぐらいにぱらぱらと入っている程度 (2階席にも若干いたが)。と言うのも、出演者にセンセーショナルな人気者がいるわけでもなく、画期的な企画でもない。おそらく、空いていた劇場のスケジュールを埋めるような形で入ったコンサートじゃないのかなあ。料金も$30と安かったし。
 歌のうまさは3人とも抜群。劇場の広さ、客の少なさを物ともせず、朗々と聴かせてくれた。オペラ歌手でもあるらしいウォーカーは歌と歌の間のつなぎが多少硬かったが、グローネンダールとノーレンは語りや振る舞いにも観客を惹きつけるものがある。特にグローネンダールはキャバレーのショウなどもやっているらしく、ギャグも豊富。
 凝った演出など全くないが、とても気持ちのいいコンサートで、広い劇場に集まった少ない観客同士ならではの親密感も手伝って、みんな温かい気分で劇場を後にしている様子だった。>

 [追記] 
 ブロードウェイ版ファントム役については、ティモシィ・ノーレンがマイケル・クロフォードから引き継いでの2代目で、3代目をクリス・グローネンダールがアンドレから転じて演じたということのようだ。
 なお、ノーレンはこの時期『Cyrano: The Musical』に出演中だったはずなのだが(オリジナル・キャストでギーシュ伯爵、次いでシラノ役へ)、なぜか手元に残るプレイビルには彼の名前が載っていない。役替わりの間隙を縫っての休暇中だったのだろうか。
 

 『Swan Lake』(5月7日14:00@Metropolitan Opera House)を観たのは、前年暮れに短命で終わって観られなかった『Red Shoes』の一部がアメリカン・バレエ・シアター(ABT)の公演で観られるというのでリンカーン・センターまで足を運んだのがきっかけ。残念ながらスケジュールが合わず、そちらは諦めて、代わりにチケットを買ったのが、これ。演目もABTも初めてだった。

<いやあ、こんなに面白いものだったとは。さすが、ABTの十八番。
 とにかく見せ場の連続で、全く退屈している暇がない。色彩感覚も美しく、特に第1幕に出てくる村の娘たちの祝祭的な華やかな衣装は鮮やか。さらに、続く第2幕がスワンたちの白、第3幕が王女たちと踊り手たちの色とりどりの衣装とブラック・スワンの黒、第4幕が再びスワンたちの白、という流れも見事。
 よかった所を言い出すと切りがないのだが、第2幕で、踊っていたスワンたちが舞台右奥から一羽一羽静止していき最終的に客席に向かってやや斜めを向いた美しい4列縦隊を組んだ時には息を飲んだ。天井棧敷から観たので、そうした動きがはっきり見えた。バレエ・ファンはそんな所では感心しないのかもしれないが、まるでラジオシティのロケッツのようだと思ってうれしくなった。
 この日の主役はニーナ・アナニアシヴィリ、王子はフリオ・ボッカでした。>

 [追記]
 振付はマリウス・プティパ&レフ・イワノフの施したものに則り、一部デイヴィッド・ブレアーが担当。演出ケヴィン・マッケンジー。

The Chronicle of Broadway and me #070★(1994/May)

★1994年5月@ニューヨーク(その1)

 11度目のブロードウェイ(38歳)。

 1994年は松本サリン事件が6月に起こる。
 政権は、前年の新党ブーム→細川護熙(日本新党)内閣誕生からの連立政権が、連立の内容を変えながら続いていて、4月に羽田孜(新生党)政権、6月に村山富市(日本社会党)政権と移行。
 8月にジュリアナ東京が閉店する一方で、関西国際空港が開港したり、新宿パークタワー完成→パークハイアット東京開業とか、恵比寿ガーデンプレイス完成→ウェスティンホテル東京開業とか、バブルの余韻は続いている。円高は依然進行中。
 サッカー日本代表の「ドーハの悲劇」とやらも、この年。ちなみに、ワールドカップはアメリカ開催。セントラルパークでサッカーボールを蹴るアメリカ人の姿を初めて観たのは、この頃かも。
 アメリカのスポーツと言えば、8月からメジャーリーグが最終的に8か月近くに及ぶストライキに入った。

 マイレージ使用で(日本の)ハイ・シーズンの渡米。航空会社は、まだノースウエスト。

5月2日 20:00 The Rise And Fall Of Little Voice@Neil Simon Theatre 250 W. 52nd St.
5月3日 20:00 The Best Little Whorehouse Goes Public@Lunt-Fontanne Theatre 203 W. 46th St.
5月4日 14:00 Carousel@Vivian Beaumont Theatre/Lincoln Center
5月4日 19:00 Lady In The Dark@New York City Center 131 W. 55th St.
5月5日 20:00 Grease!@Eugene O’Neill Theatre 230 W. 49th St.
5月6日 20:00 Beauty And The Beast@Palace Theatre 1564 B’way
5月7日 14:00 Swan Lake@Metropolitan Opera House/Lincoln Center
5月7日 20:00 Passion@Plymouth Theatre 236 W. 45th St.
5月7日 23:00 Hat Off(To Broadway)@Off Stage At Mita 266 W. 47th St.
5月8日 15:00 Damn Yankees@Marquis Theatre 1535 B’way
5月8日 20:00 Broadway Classics@Carnegie Hall 57th St. and 7th Ave.
5月9日 20:00 Crazy For You@Shubert Thatre 225 W. 44th St

 トニー賞を目指した春のブロードウェイ新作が出揃ったのもあるが、もう一つ、この年はシティ・センター「アンコールズ!」シリーズの初年度で、その第3弾の『Lady In The Dark』を観ようというのも、この時期に飛んだ理由。なお、同シリーズ第1弾は『Fiorello!』、第2弾は『Allegro』だった。

 というわけで、個々の感想に続く。

The Chronicle of Broadway and me #052(Balanchine Celebration/Fool Moon/An Evening With Liza Minnelli & Charles Aznavour In Concert)

1993年5月~6月ニューヨーク(その8)

 ミュージカル以外の3本をまとめて。<>カッコ内が当時の感想。
 

 『Balanchine Celebration/New York City Ballet』(5月30日19:00@New York State Theater/Lincoln Center)はバレエ公演。

<ジョージ・バランシンとかけてベンチャーズ(慣例により「ベ」表記)と解く。ココロは「Slaughter On Tenth Avenue」(邦題:10番街の殺人)。謎かけにも何もなっていないが、バランシンが振付を手がけた1936年のミュージカル『On Your Toes』は「バレエをストーリーの展開に不可欠な要素として使うことによって、ミュージカルの新しい方向を切り開いた」とされる(スタンリー・グリーン「ブロードウェイ・ミュージカル from 1866 to 1985」)。そのミュージカルで最高の見せ場になるのが、ジャズ風味のバレエ「10番街の殺人」だという。ベンチャーズの名演奏で知られる、あの曲だ(アレンジはまるで違うが)。観劇前のバランシン理解は、その程度。
 5月4日から6月27日まで約2か月間行われていたバランシン作品の上演。観た日は1950年代に発表された3作品が踊られた。
 「Divertimento No.15」モーツァルト(1956)
 「Agon」ストラヴィンスキー(1957)
 「Scotch Symphony」メンデルスゾーン(1952)
 いずれも極めて明快で美しいバレエ。同じ動きをタイミングをずらして何人かで繰り返す、という振付が、不思議なヴァイブレーションを生み出す。しかし、踊る方にとっては、その緊張感たるや、凄まじいものがあるのではないか。
 白・黒・赤の組み合わせ、黒一色等、作品毎の衣装の色の鮮やかさには息を飲んだ。>

 バランシン→ジェローム・ロビンズというシティ・バレエの流れは、ボブ・フォッシーにも連なる。と思って、来日公演なども時折観ている。機会があれば、ぜひ。
 

 『Fool Moon』(6月2日14:00@Richard Rodgers Theatre)はパントマイムのショウ。

<デイヴィッド・シャイナーとビル・アーウィンという2人のパントマイム芸人(というかクラウン?)によるショウ。昨年夏にリンカーン・センターで行なった同内容のショウが好評で、ブロードウェイに舞台を移してロングランの幕を開けることになったらしい。
 攻撃的なシャイナー、弱気なアーウィン、というキャラクターの違いはあるが、漫才コンビのようなボケとツッコミの芸というわけではなく、それぞれがもっぱら1人の芸を見せ、途中何回か2人で組むという構成。バックにザ・レッド・クレイ・ランブラーズという、アメリカ+中近東フォーク・ミュージックのような音楽を演奏するユニークなバンドが付き、舞台を盛り上げ、時には笑わせもする。
 鍛えぬき練り上げられた動きを、大笑いしながら大いに楽しんだ。中で、2人並んでお互いの頭を叩いたり引っ張ったりする度に身長が伸びたり縮んだりするという芸は、動きが単純な分、逆に際立って印象に残った。
 ただ、もっと激しい動きを求めている自分にも気づいた。今年の元旦にリンカーン・センターで観た『The Big Apple Circus』の、シーザーという人のパントマイムのスピード感が頭に残っていたせいだろう。
 ところで、シャイナーを攻撃的と書いたが、冒頭、客席に現れたシャイナーがチケットを手に席を探すふりをしながら、観客に文字通り攻撃を加える。それに対する観客の反応が、驚きながらも、よく慣れているのに感心。こうした客いじりの場合のみならず、観客が舞台に上げられた場合でも臆することなく積極的に楽しみ、時には見事な芸を見せたりもする、という風土は、実にうらやましい。もちろん、中には例外もあるのだろうが。
 なお、この2人、サム・シェパードの撮っている『Silent Tongue』という映画に揃って出ているらしい。公開が楽しみ。>

 この作品、この後、1995年、1998年のホリデイ・シーズンにも同じメンバーでブロードウェイでの期間限定公演が行われている。
 ビル・アーウィンはミュージカル好きには1991年のライザ・ミネリ主演映画『Stepping Out』で知られているだろう。この作品以外でも、しばしばブロードウェイに登場。2005年のプレイ『Who’s Afraid of Virginia Woolf?』ではトニー賞主演男優賞を受賞している。ミュージカルでは2009年の『Bye Bye Birdie』に出ていた。
 一方のデイヴィッド・シャイナーは、2000年のミュージカル『Seussical』に主人公のキャット・イン・ザ・ハットとして姿を見せた。
 なお、公開が楽しみ、と書いた『Silent Tongue』は、この年に開かれた第6回東京国際映画祭で『アメリカンレガシー』という邦題で上映された後にヴィデオ発売。日本国内では通常の劇場公開はなかったが、2014年に、出演していた故リヴァー・フェニックスの“幻の遺作”と共に劇場にかかったらしい。『アメリカンレガシー』じゃ、お釈迦様でも気がつくめえ。
 

 『An Evening With Liza Minnelli & Charles Aznavour In Concert』(6月4日20:00@Carnegie Hall)は、おそらくライザ・ミネリがトニー賞の司会をするのに合わせての企画だろう。ライザとシャルル・アズナヴールとは交流が深かったようだ。この時、初めてカーネギー・ホールに足を踏み入れた。

<席は2階の回廊のように張り出したバルコニーだが、1坪ちょっとぐらいずつに仕切られていて、そこに椅子が8つ置いてある。その仕切り毎に、廊下との間にドアが二重に付いているという、個室風の何だか偉そうな造り。ステージからは遠いが、気分は豪華。
 ライザ・ミネリの歌をコンサートで聴くのは初めてだが、これがいい。聴いていて気持ちがよくなる。単なる熱唱ではない。やはり、うまいのだと思った。
 後半のアズナヴールもよかったが、できればライザをたっぷり観たかった、というのが正直な気持ち。>

 この頃はライザの声の調子がよかった。が、今となってはアズナヴールをたっぷり聴いておきたかった気分。人の心は移ろいやすい。