The Chronicle of Broadway and me#1073(Harmony)

2023年11月@ニューヨーク(その5)

 『Harmony』(11月11日14:00@Ethel Barrymore Theatre)は、第一次世界大戦と第二次世界大戦の狭間の時代に全世界的な人気を博した、男性5人のコーラス+ピアニスト1人からなるドイツのグループ、コメディアン・ハルモニスト(The Comedian Harmonists)の物語。

 同じ題材を扱った『Band In Berlin』というブロードウェイ・ミュージカルが1998/1999シーズンにあったようで(B’way検証スペース第10回で触れている)、プレヴュー19回、正式オープン後17回の上演で幕を下ろしたため未見に終わったが、同作は、出演者がグループのメンバー役6人と(おそらく)ナレーター的な1人だったこと、ミュージカルのためのオリジナル楽曲が使われていないこと(つまり彼らのレパートリーが使われていた)、の2条件から推して、コメディアン・ハルモニストの“そっくり”ショウのスタイルを採りながら彼らの歴史を語った、という作品なのではないかと思われる。
 それとは違って、この『Harmony』の楽曲はオリジナル。バリー・マニロウが作曲し、彼の盟友ブルース・サスマンが脚本と同時に作詞も手がけている。そうやって新たに作られた楽曲たちではあるけれども、時代の雰囲気も含め、舞台の世界観とよく馴染んでいて違和感がないのは、グループのことを深く研究した成果でもあるのだろう。メンバーのコーラスも巧み。印象に残る楽曲も少なからずある。もちろん、通常のミュージカルとして、グループのレパートリーという設定以外の楽曲も用意されている。

 物語の設定は1927~1935年のベルリン。ナチスが勢力を伸ばしていく時代。1929~1930年のベルリンという『Cabaret』と被る。で、グループの中にユダヤ人メンバーがいるということになれば、おおよその展開は想像がつく。
 先回りして言えば、ナチス政権下、グループは不本意な形で解体していくことになるわけだが、そこに到るまでの経緯をメンバーの1人の回想というスタイルでたどっていくのが、この舞台。
 『The Garden Of Anuncia』同様、語り部となるメンバーは、グループ在籍当時の若き彼とは別に、後の年老いた姿で登場。語り部である彼は、回想しながら当時の自分について、たびたび悔やむ。あの時こう発言していれば、あの時こう行動していれば……と。それは逆に言うと、いくつもの“もしも”であって、“もしも”カーネギー・ホール・コンサートの後でアメリカに留まろうと発言していればグループは存続していたはずだし、“もしも”目と鼻の先にいたヒトラーを撃っていれば人々は悲惨な運命をたどらずに済んだはず。なぜ、そうしなかったのか。年老いた彼は嘆く。まるで、この作品全体が彼の後悔の記録でもあるかのように。
 そうした構成自体は理解できるが、語り部の嘆きがあまりにストレート過ぎて、個人的には少し醒めたりもした。もう少し捻って、その嘆きを、例えばカート・ヴォネガット的な苦いユーモアのようなものに包んで見せてくれていれば、舞台作品として膨らみが出たのではないかと思ったりもする。

 構成についての思いつきをもう1つ言っておくと……。
 第1幕は1933年のカーネギー・ホール・コンサートの場面から始まって、グループ結成からそこに到るまでの経過が(さらなる)回想で描かれる。これはこれで完結する形でうまくいっているのだが、第2幕はカーネギー・ホール・コンサート以降のひたすら悪化する事態が描かれていく。ここには意外性もなく、想像通りに辛くなるばかり。
 だとしたら、いっそ、『Merrily We Roll Along』式に、グループが解体するところから始めて、最も幸福だったグループ結成に向けて時間を遡ったらどうだろう。できない相談でもない気がするが。……と、まあ、思いつきですが。
 
 語り部を演じるのはチップ・ザイエン(『Into The Woods』『Falsettos』『The Boys From Syrasuse』『Chitty Chitty Bang Bang』『The People In The Picture』It Shoulda Been You)。
 グループのメンバーは、ショーン・ベル、ダニー・コーンフェルド、ザル・オーウェン(観た回は代役でコンスタンティン・パパス)、エリック・ピータース、ブレイク・ローマン、スティーヴン・テルシー。オーウェン以外がブロードウェイ・デビュー。
 メンバーの恋人→妻になる2人が、シエラ・ボーゲス(『The Little Mermaid』It Shoulda Been You)とジュリー・ベンコ(『Fiddler On The Roof』『Funny Girl』)。
 ジョセフィン・ベイカー役で華を添えるのがアリソン・セムス。

 演出・振付ウォーレン・カーライル。

The Chronicle of Broadway and me#1072(Back To The Future: The Musical)

2023年11月@ニューヨーク(その3)

 『Back To The Future: The Musical(11月9日19:00@Winter Garden Theatre)は、マンチェスター発(2020年)ウェスト・エンド経由(2021年)でブロードウェイに到着。もちろん1985年のロバート・ゼメギス監督による大ヒット同名映画の舞台ミュージカル化作品。
 脚本を書いたのが映画版脚本をゼメギスと共作したボブ・ゲイル。2人いる楽曲作者(作曲・作詞)の1人が映画版の音楽も手がけたアラン・シルヴェストリ。しかも、映画で使われた楽曲も何曲か出てくる。てことからもわかるように、基本的には映画版を踏襲するイメージで作られている。
 それが予想できたので、限られた(今度こそ最後の…たぶん)滞在期間の中で観るかどうかを迷ったが、とりあえず観るだけの価値はあった。ただし、あくまで観光客向けエンタテインメントとして、ということで。

 ストーリーは、ほぼ映画の通り(映画を観ていなければ、そこは楽しめるはず)。映画版に詰め込まれていたギャグは取捨され、新たなギャグも加えられているようだが、そのあたりの評価は好事家にお任せしたい。
 言えるのは、全編にわたって映画をなぞっているので、“段取りを踏んでいる”感があること。舞台ならではのスリルが希薄になっている。それは例えば、悪役連中との“追っかけっこ”とかに顕著。なので、作品の魅力となるべき「コメディ」部分が、映画に比べると弱い。

 前述のシルヴェストリと、『Ghost: The Musical』『Jagged Little Pill』のグレン・バラードが共作している楽曲は、それなりに楽しかった気がする。ただし、終盤に立て続けに出てくる映画版からのナンバー(「Earth Angel」「Johnny B. Goode」「The Power Of Love」「Back In Time」)の強い印象の前に、残念ながら記憶から消えてしまった(この4曲にシルヴェストリは関わっていない)。

 てなことをブツブツ言ううるさい客をも最終的に楽しい気分にさせるのが、これまた終盤に立て続けに繰り出されるスペクタクルなシーン。これからご覧になる方のために詳細は明かさないが(だからって過剰な期待を抱かれても困るが)、これまで観たこともないというような仕掛けが登場するわけではないにも関わらず、その見せ方とタイミングが絶妙で、けっこう盛り上がる。

 役者では、なんと言っても主人公の父親ジョージ・マクフライを演じるヒュー・コールズ。タイムマシン・カーを作ったドク・ブラウン役ロジャー・バート(『Triumph Of Love』『You’re A Good Man, Charlie Brown』『The Producers』『The Frogs』『Young Frankenstein』『Disaster!』)と共に、マンチェスター→ウェスト・エンドを経てブロードウェイまで交替することなるやってきて、これがブロードウェイ・デビュー。もちろん、映画版のクリスピン・グローヴァーの演技をなぞっているのだが、そこに舞台ならではの“アク”も加わって大いに沸かせる。
 肝心のロジャー・バートは残念ながら休演だったが、代役のメリット・デイヴィッド・ジェインズは見事な“バートぶり”を見せてくれて楽しかった(当然のようにホンモノには少し足りないが)。
 主人公マーティ役はケイシー・ライクス(『Almost Famous』)。その母親役(にしてヒロイン)はリアナ・ハント。

 演出ジョン・ランドー(『Urinetown』『Dance Of The Vampires』『The Wedding Singer』『A Christmas Story The Musical』『On The Town』『The Honeymooners』『The Sting』)と振付クリス・ベイリーは『Gettin’ The Band Back Together』のコンビ。

 ウィキペディアによれば、当初は2015年にウェスト・エンドで発進する予定で動いていたのだが、創作上の意見の違いで演出家ジェイミー・ロイドが降りたために開幕時期が遅れたらしい。ストレート・プレイでの仕事の多いロイドの創作案を採用していれば、もっと挑戦的な舞台になったのだろうか。